若手エンジニア二人で新卒の全職種向けエンジニアリング研修をリデザインした話 設計編

エンジニアの鈴木(@zookeeper08)と藤井(@touyou_dev)です。今回は新卒3年目と2年目となる私たち2人が、今年入社した新卒向けに全職種向けエンジニアリング研修をリデザインした話について、前編・後編の二部にわたって紹介します。

前編となるこの記事では、研修を作っていくにあたってどのような調査を行い、どのように考えて研修を設計していったかの部分に関してご紹介します。

後編はこちら👇
若手エンジニア二人で新卒の全職種向けエンジニアリング研修をリデザインした話 実施編

研修を通して何を学んでもらうか

グッドパッチの新卒研修はいわゆる社会人基礎のようなものや会社のカルチャー・制度への理解を深めるものから始まり、UX・エンジニアリング・営業・UIのそれぞれの職能ごとのもの、そして模擬クライアントワークの形式の研修をあわせて約2〜3ヶ月かけて全職種に対して共通で実施します。(※ 年によってはUI研修のみUIデザイナー職限定になっています) そのため、必ずしもエンジニアのためのエンジニアリング研修をすればいいという話にはできません

キックオフ時点でマネージャー陣にどんなことを目指す研修なのかをヒアリングしました。 そこであがった研修で達成したいことがこちらです。

1.エンジニアがデザインを見るときの観点を知れること 2. デザインの後でリリースまでには何が必要でどれくらいの作業なのかを知れる
キックオフ時点での研修で達成したいこと

この時点では研修を受ける新卒にエンジニアがいない想定だったということもありますが、まとめると「デザイナー側の開発に対する解像度を上げることで、案件内でのコミュニケーションを円滑にする」ということが大きな目標としてあることがわかりました。

具体的な研修内容としては、ソフトウェアに通ずる一般的な知識、開発フェーズで必要な観点、リリースまでに必要なことなどが挙げられました。

エンジニアよがりな内容を避けたい

キックオフで出てきた内容は確かにどれもソフトウェアに関わる上で知っておいて損はない大切な内容です。 しかしながら、「デザイナーとエンジニアがうまく連携できるようにする」という大義名分を掲げつつ実際はエンジニアが働きやすい状況を作るための内容を伝えているだけなのではないかという違和感がありました。エンジニア側の期待を一方的に押し付けている感が否めなかったんですよね。

そこで、現状起きているエンジニアとデザイナーが関わる開発案件の課題を踏まえ、エンジニアが参加している開発フェーズではなく、むしろエンジニアが参加できない仕様フェーズを重点的に取り扱う方がいいのではないかと考えました。そこから研修の方針を職種を問わずに「ソフトウェアを設計する」ことの解像度を高められるような内容と設定し、研修名もエンジニアリング研修ではなく開発案件研修という「自分の職種にも関係がありそう!」と思ってもらえるような名前に変更しました。

そして、改めて研修で達成したい理想の状態を以下のように設定しました。開発フェーズに特化せず、開発案件(ソフトウェアを設計すること)の全体像を理解してもらいつつ、仕様フェーズで必要な観点を重点的に扱うことにしました。

研修で達成したい理想の状態

その後にスタジオディテイルズの新卒(デザイナー1人、エンジニア2人)も参加することが決定したのですが、新卒エンジニアにとっても有用な部分(そしてどのプラットフォームのエンジニアになるにしても大事な部分)だろうということで方針は崩さずそのまま進めました。

研修内容を決めるための調査

大きな目的がわかったところで、いくつかの観点で調査を行いました。今回行ったのは以下の観点です。

  • 過去の研修でどのようなことが行われていたのか
  • 今年他に実施される研修でどのようなカリキュラムが組まれる可能性があるのか
  • 他社の研修でどのようなことが行われているのか
  • 社内デザイナーが開発案件に対して持っている課題感
  • 過去にデザイナーとエンジニアの協業に関して議論された際のログ

グッドパッチは幸いにもナレッジ文化が浸透しています。社内のリソースに関しては比較的すぐ集まり、またデザイナーとエンジニアの協業に関してはまさに社内施策として昨年頻繁に取り上げられていた議題だったので新鮮な情報がすぐ取れました。 また他社の研修の調査としてはgcchaanさんがまとめている研修資料まとめ.mdを参考にさせていただきました。中でもVISIONAL、ドワンゴ、スマートキャンプ、CYBIRD、Yahoo!などの会社には非エンジニア向けエンジニアリング研修が行われており、他社の事例として非常に参考になりました。

どういう研修構成になったか

実際の研修構成

研修のタイムスケジュール
研修のタイムスケジュール

今回はこのように全4日、そのうち1日は半日全社のイベントがあったため実質3.5日のプログラムとなりました。

各テーマでの理想状態を考える

大前提として、研修で扱った内容は基本的に忘れられてしまいます。特にインプット過多になりがちな新卒時期はアウトプットの機会がなく知識の定着が難しそうですよね。忘れられてしまうのを前提としていたので、取り扱うテーマそれぞれで研修が終わった半年後の理想状態を「印象に残っている状態」と「知識がある程度定着している状態」のどちらにするかを検討しました。

印象に残っている状態

・必要な場面でキーワードが頭に浮かぶ状態
・難しいことはやらずに重要な概念や全体像を伝える
・必要になったら頼れる場所・人・教材を紹介する

例えばアクセシビリティの講義を1時間実施したとしても、その場では深く感銘を受けたものの半年後には具体的な内容は覚えていないというのがよくあるオチな気がします。結局のところ、自主的に学習してもらわないと結構厳しいところありますよね。

そのため研修を通して「好奇心を刺激させ自己学習につなげる」「必要な場面でキーワードを思い出すことができ、情報を獲得する手段を知っている」あたりを実現できるような内容を意識しました。

アクセシビリティに関していえば、座学というよりは実際に体験してもらう(色覚特性の見え方やmacOSの読み上げ機能VoiceOver)ことに比重を置きつつ参考資料などを紹介することで、興味のきっかけ提供と自己学習の手助けをするような設計にしました。

色覚特性を体験して改善策を考えるサイト(一見普通に見えるサイトだが情報が伝わらない例)
色覚特性を体験して改善策を考えるサイト(一見普通に見えるサイトだが情報が伝わらない例)

知識がある程度定着している状態

・必要な観点を理解し、具体例を交えて説明できる状態
・座学→実践の流れで定着を促す
・クライアントワークで活きるようなテーマで実践

開発案件研修でこの状態を目指したテーマは「仕様」のみです。 知識を技術として活用できるような体験をできる限り提供したかったので「座学で新たな観点を伝える」と「座学の観点が活きるようなワークの実施」をセットにしていました。

ワーク全体の流れとしては「既存仕様を紐解く」→「要求から仕様を考える」→「課題を見つけて仕様を改善する」となっており、日を跨ぐことに難易度が上がっていき最後は実際のクライアントワークに近しい内容を体験してもらうような設計にしました。

終わりに

良いプロダクトを作るという大目的を達成するためにはデザイナーとエンジニアの連携は必須であり、コミュニケーションの土台となる仕様書の質はプロダクトの品質に大きく影響を及ぼす、という考えのもと新卒研修をリデザインしてみました。キックオフ時点ではこれまでの研修内容を踏襲しつつ一部内容を変更するという予定でしたが、終わってみればコンセプトから研修内容の全てを作り替えてしまいました💙

今回は新卒向けに実施しましたが、鈴木と藤井の裏目標として「社内の全デザイナーを対象として実施できるような研修を設計する」というのを掲げていました。グッドパッチには多くのデザイナーが在籍しており、同じ職種のデザイナーでも得意としている分野は当然違います(デザイナーに限らず全職種同様)。その上で、私たちはグッドパッチとしての当たり前品質を生み出すことが責務であり、品質の最低ラインを底上げしていくことが求められています。そういったことにエンジニアとして貢献できることの一つが今回のような研修設計及び実施なのかなと思います。

前編は以上になります。後編では研修中に工夫したことや、参加者の声などを踏まえた研修をやってみた結果についてお話します!よければご覧ください!

後編はこちら👇
若手エンジニア二人で新卒の全職種向けエンジニアリング研修をリデザインした話 実施編


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