大生成AI時代の生産性解体新書

こんにちは!デザインエンジニアの藤井(touyou)です。
この記事はGoodpatch Advent Calendar 2025 10日目の記事になります。

今回は、生成AIの文脈でよく語られる「生産性」という言葉を、あらためて分解して考えてみる話です。
社内でAI活用を進める中で、「生産性を上げよう」と簡単に言ってしまうと、むしろ議論がややこしくなるな......と感じる場面が増えてきました。
そこから見えてきた、自分なりの「生産性」のとらえ方を共有できればと思います。

個人的に感じていた課題感

そもそもなぜ「生産性」という言葉に着目したのかをまずお話しします。

現在弊社ではAIの活用レベルというものが採用されており、そのレベルを全員が上げていくこと、というのがAI Driven Design Companyとしての最重要ミッションになっています。
ただ、この「AI活用レベル」をそのまま個人に当てはめようとすると途端に難易度が上がり、さまざまな人が「自分はどこを目指せばいいのか?」という解釈に悩む状況が生まれていました。

原因はいくつかあります。たとえば、レベルが上がるほど高度なエンジニアリングスキルが求められたり、普段の業務からの乖離が大きくなったりと、「自分ごと化しづらい」性質を含んでいたことです。
そこでこのレベル分けを、もう少し自分たちが実感を持って扱えるものにできないか、という取り組みを、エンジニアの施策チームではじめました。

ただこの時レベルの主軸に置かれてた「生産性向上」という指標が非常にわかりにくいという結論に行き着いたのです。
もちろん、仕事のやり方をそもそもアップデートするといったような話だと十分なのかもしれないですが、ステップを切るとなった時にこの指標をそのまま扱うと話がとてもややこしくなり、本質を見失ってしまうかもしれないと感じたわけです。

「生産性を上げる」という一言の中に、実はまったく違うニュアンスが何層にも折り重なっているのではないか?
そう考えたことが、これから紹介するフレームをつくるきっかけになりました。

AIと生産性を考える上での軸の提案

ここからは、「生産性」というざっくりした言葉を、もう少し扱いやすい要素に分解していきます。

まず自分は「生産性向上」という言葉が非常に多義的なのではないか、という仮説のもと次のように軸を分けることを考えました。それが次の図です。

考えたのは価値・時短率・技術レベルの3軸です。
生み出されるアウトプットの「価値」、どれくらい速くできるかという「時短率」、そしてそれを支える「技術レベル」。
この3つに分解してAIと生産性について考えることで、これまで一つの言葉の中に押し込まれていた議論を整理できるのではないかと考えました。

これだけだと少しわかりにくいのでAIに整理させてみたのがこちらです。

意味 指標の例
価値(Value) 成果物の質や独自性、人にとっての意味 ユーザー満足度、創造性、差別化
時短率(Efficiency) タスクの時間削減や処理速度 作業時間、アウトプット量
技術レベル(Capability) AIやツールの性能、適用範囲の広さ モデル精度、操作の自動化範囲

具体例でなんとなく雰囲気はつかんでいただけたでしょうか?

ここでやっていることは、シンプルに言えば「生産性」という一つの軸を、「価値」と「時短率」の二軸に分け、AIの利活用そのものは主に「技術レベル」という軸で捉え直す、ということです。
この分解が、後半で出てくるいくつかのモヤモヤを言語化する鍵になります。

三つの軸で世の中の認識を整理する

ここからは、この三軸を使って「世の中でよく聞くAIと生産性の話」を眺め直してみます。

まず「生成AIで生産性を上げよう」という論がある時、世の中の多くで何が期待されているかについてです。
もちろん議論のレベルさまざまありますが、自分は多くの場合、以下の図のようにより「より高度な生成AIを使って時短率を上げよう」の意で語られているのではないかと考えました。

一方で先ほどの言葉だと「生産性を上げよう」のすべての意を表したとは言いにくいと思います。
暗黙的にみんなが期待しているのは時短率を上げることによって価値を上げていくということなのではないでしょうか。つまり、次の図です。

さて、ここに2つの平面で考えた「生産性を上げよう」の解釈が出揃いました。これを最初の三次元空間に戻してみようと思います。
すると何が起こるでしょうか?

緑の線が示しているのが最初にかかげた多くの場合の世の中の期待です。ここでわかるのは、生成AIのより高度な技術を使うことで時短率を上げていくという動きの中で、それによって生まれる価値が変わらないという暗黙の了解が含まれているということです。
一方でより理想なのはオレンジの線でしょう。AI活用が進むことで時短され、価値が上がっていく、というのが本当に実現したいことであり、目指すべきところかなと思います。
ですがこううまくいくわけではありません。実際には赤線のように時短率は上がっても価値が下がってしまうというのがさまざまな場面で起こっていることではないかなと思うのです。

なぜそんなことが起こるのか。
そもそもAIというのは確率的な性質を持っています。手で書いたプログラムと違い、AIのプロセスというのは確率的に一番高いであろう選択肢を選択し続けるというものです(仕組みを知りたい方はぜひこちらのブログを参考にしてみてください)。
そのため「価値が高いもの」が選ばれるというよりは「過去のデータにおいて最もそれっぽい平均的なもの」が選ばれる傾向が強くなります。
成熟した組織・人ほど、すでに平均以上の価値を出せる状態にあるはずなので、そこに平均的なアウトプットを混ぜ込むと、むしろ価値が下がってしまいやすいわけです。

というわけで自分はこの状態をまず認識しておくことが重要なのかなと思いました。特に「生産性」という言葉を無思考で使ってしまうと緑のような期待を勝手に抱いてしまい、価値の低下に気づけなくなるため、少なくとも赤線ではなく、緑の線にとどまれているかどうかを意識するのが大事なのかなと思います。
「時短できているからOK」ではなく、「本当に価値は保てている・上がっているのか?」を意識的に問い直す必要がある、ということです。

AI活用を進める価値の再定義

ここまでの整理はAI活用を無計画に進める危険性を指し示しています。ですが一方でこの整理をすることで、生成AI活用を積極的に進める理由というものも再定義できます。

以下の図を見てください。今度は時短率と価値の面で切った時の様子です。

こう見た時に、生み出せる価値の総量というものを考えてみたいと思います。するとこれはこの平面における積分のような形で表せます。
なぜなら時短率が上がるということは、その分使える時間が増えるということになるからです。

そのため、たとえ赤線であってもAI活用を進めることは十分に有効だということが言えます。ここでのAI活用を進めるは時短率を上げていくことに等しいですから、その分面積が増える=価値の総量が増えるわけです。
一方でこの図でも明らかなようにその効果というのはオレンジ線のようになると最大化されるものなので、赤線に甘んじてはいけないという論は引き続き有効と言えます。

ここでのポイントは、「1回あたりのアウトプットの価値」だけでなく、「一定期間で生み出せる価値の総量」をみる視点を持つことだと思っています。
AIによって1タスクあたりの価値が少し下がったとしても、圧倒的に数をこなせるなら総量としてはプラスになる可能性がある、という視点です。

このようにAI活用を進める理由は分かったのですが、それを技術レベルの軸を混ぜずに語ることも重要です。
以下の図のように、一般的には技術レベルが上がるほど時短率も上がっていく、という緑の線をイメージするかと思いますが、実際のところは赤線のように技術レベルのいかんに問わず時短率を上げることは可能だからです。

つまり、「高度なモデルを使えないと生産性は上げられない」というわけではなく、かなりシンプルな使い方であっても、AIを使わない形であっても、やり方次第で時短率は上げられる、ということです。 このように考えていくことでAIをより明確に「目的」ではなく「手段」として位置付けられます。
時間をいかに短くし、価値の総量を増やしていくかという本当の目的、つまりこれこそが「生産性を上げる」ことそのものなわけですが、そこにフォーカスできるというわけです。

AI時代は「生産性」すら学習曲線的となる

さてもう少し今回の考え方のフレームを活用してみましょう。
ここまでに出てきてなかった面として、技術レベルと価値の面があります。ここはどうなるでしょうか?

この図が自分が考えたこの面で起こることです。価値と技術レベルは何か相関するものではなく、ある技術レベルに対して、良質なインプットを与えたり、活用テクニックを編み出したり、自身のレビュー能力を向上させることで、価値が垂直に上がっていくだろうというのが自分の考えです。

これはある技術の学習に等しいため、当然その価値の上がり方は実際のところ学習曲線的に一時停滞したり落ちるラインがあると思います。
これはもちろんそうなのですが、生成AIの場合その特異な性質として、時短率も学習曲線的になると考えています。

具体的には、こんなステップを踏むイメージです。

  1. 使い始めた直後 ... とりあえずAIに投げてみるだけでも、いきなり時短される
  2. 少し慣れてきた頃 ... プロンプトを工夫したり、自分なりのチェック・修正プロセスを挟み始めることで、むしろ前より時間がかかることもある
  3. さらに習熟した後 ... 良質なインプット設計やレビューの型が洗練され、「高い価値」と「高い時短率」を同時に実現できるようになる

どういうことかというと、生成AIの価値を高めることというのは、それだけ良質な情報を、大量に、いいモデルや大量の計算資源を使って計算するということに等しいからです。
そのため、雑にであればいくらでも時間を短くできたところが、価値を意識し始めた瞬間に思ったより短くならない、むしろ雑に使っていた時よりも時間が伸びてしまう可能性があります。これが時短率も学習曲線的になると考える理由です。

つまり、価値と時短率の複合たる生産性そのものも学習曲線的になるということが言えるのではないでしょうか。

そう考えると、「生産性」というものを一本の軸としてしか扱わず、それだけを指標にすることは、学習の途中で起こる揺れや一時的な後退を誤解してしまうリスクがあるとも言えます。
短期的な数字の上下だけを見るのではなく、学習曲線のどのフェーズにいるのかをセットで見ることが重要になってくるはずです。

まとめ

生産性を価値と時短率に分解して、整理する考え方をここまでで紹介してきました。

この考え方はあくまで自分のひとつの考察ですが、一番大事なことはそのぐらい生成AIにおいて生産性を語ることには複雑な要素が絡み合っているということです。
このことを認識するだけでも、少し冷静に今何が起こっていて、真に目指すべきは何なのか、そういったことがわかってくるのかもしれません。

個人的には、「生産性」はゴールではなく結果であり、その内訳である「価値」と「時短率」をどうとらえ、どうAIの利活用の手段を設計し実行していくかこそ、AI時代の重要なテーマだと思っています。

じゃあ自分はそんな生成AIとどう向き合っていくのか、ということについては21日の記事でまた詳しくお話ししていきます。


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